医療の原点は「祈りと癒し」

毉(い)という旧文字が示すように、かつて病気を追い払ってくれたのは一心不乱に祈ってくれる僧侶や神主、巫女さんたちでした。

今も祈りは大切です。安産祈願に神社に行かない人はまずいないでしょうし、建設現場でも安全祈願なしで工事は始まらないのです。

こうした医の原点は古今東西変わることはありません。根底にあるのはやはり「病は気から」なのです。こうした治るに違いない、治してみせるという気力が自然治癒力を高めます。メディスンマンとは北米で祈祷師を意味します。

祈りには同時に癒しも含まれます。20世紀最高の治療師として世界に知られているのが、ブルーノ・グルーニングです。名古屋にもコミュニティーがあり、数年前から賛同し参加しています。素晴らしいことは、世界中の治癒例を医師の監督の元に記録発表していることで、どんな病にも治癒はあるということが確信できます。https://www.bruno-groening.org/

ヒポクラテス

旅をしながら病人を癒したのは、ギリシャのヒポクラテス(BC400頃)です。彼が優れているのは何人もを癒すうちに、病気の一般項を見出したことです。それが体液説です。血液、粘液、黄胆汁、黒胆汁の四つのバランスが大切で、その乱れが病気を作るといいます。(実はこの発想はインド・アーユルベーダからと思われ、おそらくアレキサンダー大王によるインドとの交流がきっかけだったのでしょう。)また排泄の重要性について、嘔吐、下痢、排尿、喀痰、出血は治癒の始まりと見抜いていました。

ガレノス医学

時代が下がってローマ時代になると、イエス・キリストという最高の治療師で癒し人が現れるですが、彼は後に医者というより社会を癒す聖人に崇められてしまいました。

続くガレノス(129~199)は、医聖として慕われつつ、膨大な著作を残しました。

ヒポクラテス医学を基にしたガレノスはさらに革新的な学説を残しています。消化には三段階あると見抜いています。

第一は胃腸など消化管による消化。これらが門脈という血管を通って肝臓に運ばれる、これは全く正しいことです。

ついで一部は乳糜にもなった食べ物は真正の血液になると見抜いています(第二の消化)。

第三段階は末梢で起こる血液からの再生です。血液から組織や器官が作られると残しています。ですから食べ物が血液となって臓器なる、そうガレノスは考えていました。もちろん現代医学は否定しています。

現代において、一部の科学者(敬愛すべき千島喜久男博士など)は、腸で血液が作られ、血液が臓器に変化するという学説を唱えており、ガレノスにつながる考えなのです。

さらに治療法として食・運動・マッサージを勧め、植物生薬をも作り出し、瀉血など排毒の医療も彼のアイデアです。

ガレノス医学はエジプトのアレクサンドロス(7世紀まで栄えた)やジュンディ・シャプール(ササン朝ペルシャの中心都市)にも伝えられ、そののちなんとイスラムの中心地バクダットにそっくり移植されたのです。

バクダットのユナニ医学

バクダッドで発達した化学・医学はユナニ医学の名で知られ、アルコールやアルカリ、アルデヒドなどの言葉を生みました。

ここでガレノス医学をさらに発達させたのが、化学者で医学者、さらに思想家でもあったイブン・シーナーです。彼の著した「医学典範」はイスラム世界だけでなく西洋社会でも広く読まれていました。その中には役立つ薬草を強弱四つの段階に分けて、丸薬、錠剤、練り薬などを作る記載もあり、さらに消化剤や点眼薬、解毒剤や座薬まであったといいます。これこそが、醫(い)という文字にふさわしい医学でしょう。彼によって薬物治療は大きく発展しました。

この頃のバクダットは、キリスト教世界から排斥された異端のネストリウス派を迎え入れながら様々な学問を取り入れました。

またイスラムは広く唐ともインドとも交流を持ったため、ネストリウス派はユナニ医学を遥か東洋に紹介し、日本にも到達しているのです。空海も知っていたとかなかったとか。

こうしてヒポクラテスやガレノスの医学は、ギリシャ→ローマ→バクダット→コルドバへと伝えられ、消し去られることなく欧州にもたらされました。これには十字軍の活躍とルネッサンスの働きも加わっています。

近代医学は血液循環

現在世界を席巻している西洋医学は、ガレノス医学とは大きく異なります。近代医学の父と言われるウイリアム・ハーベー(1578~1657)は、血液循環の仕組みを初めて明らかにし、ガレノス医学を真っ向から否定したのです。当時はなかなか受け入れられずに、血液が循環するというと周囲からバカにされ、「循環器」という名がヤブ医者を意味していたというから、歴史は面白いです。

病気には内因と外因がある

近代医学の発達は感染症の克服からです。顕微鏡によるバクテリアの発見、さらに消毒の技術は当時のしつこい感染症に対して絶大なる威力を発揮しました。これらはいわゆる病気の外因です。

しかし外からやってくる微生物を無くしてまえば病はなくなる、そう短絡に考えてはなりません。ヒポクラテス・ガレノス医学を始め、東洋医学などは内因に重きを置いてきました。

内因を考える近代医学において今後の課題は、苦手であった内因への対策です。それは結局、生活習慣の改善なのです。適食と適度な運動なくして健康は得られないのです。さらに何ごとにも惑わされずに熟睡できること。意識下に心配事や深刻な悩みがあれば熟睡できません。寝汗をかいていませんか?

最大の内因は、自我の克服ということになります。真に互助の世界が実現するまでは、自我社会の悩みは尽きることがありません。

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