微生物のこと

近頃の紙面をにぎわせていることの一つが、家畜の感染症のことです。大量飼育をされている豚やニワトリたちが、コレラやウイルスで死亡してしまい、それだけならまだしも感染源となることを恐れて、発病していない家畜たちも大量に一緒に葬ってしまうという悲劇が起こっています。

 

北里柴三郎らの業績

感染症の実態が解明されたのも、まだほんの百年ほど前のことです。ドイツのロベルト・コッホ、フランスのルイ・パスツール、日本の北里柴三郎らの業績は良く知られています。それもドイツ製の精密な顕微鏡があってのこと、コッホは生前にカール・ツァイスのおかげであることを書き残しています。

19世紀のアメリカには多数の移住者が住み着き、にわか都市が形成されました。五大湖に近いシカゴは、インフラ整備が遅れ、非常に不潔なことで有名でした。急遽下水を作ったのですが、糞尿や家畜の屠殺による真っ赤な血液もそのままシカゴ川やミシガン湖に垂れ流しという状態でした。

すでにミシガン湖から水を引いて飲料の水道を作っていたから大変です。人口が増えるに従い、致命的な感染症が流行しました。特にコレラが猛威を奮い、多い時は一日に60名も亡くなったそうです。コッホがコレラ菌を確認をしたのは1884年、その後ようやく汚水処理などが始まりました。

そしてついに1908年シカゴの医師レアルが、独断で水道水に次亜塩素酸を混入し、塩素消毒を開始しました。今では当たり前になっている塩素消毒ですが、最初は市民の猛反対にあったということです。

 

微生物は病原菌?

このように19世紀に猛威を振るった感染症も、原因が解明されることによって、手洗い、消毒、滅菌の習慣が生まれ、やや克服できたように思われています。とにかく現代日本では重篤な感染症の心配はあまりせず、まずは安心して生活しています。そのかわり微生物は病気を引き起こす厄介ものという、短絡的な常識だけが広まってしまいました。

 

微生物と多細胞生物

かつてある医学博士がこう言っていました。微生物は多細胞生物の中から生まれる、また自然発生もしていると。博士の名は岐阜大学の千島喜久男氏です。しかし今、そんな学説は当然受け入れられてはいません。

しかし近年微生物と昆虫とがいつも共生関係の中で生きていることがわかってきています。たんなる共存に留まらず、微生物の遺伝子が昆虫の中に取り入れられ、その遺伝子によって非常に有用なタンパク質が合成されてる例もあるのです。

 

ウイルスとバクテリア

またたくさんのウイルスがバクテリアの中で生きていることがわかっています。このバクテリアに入り込むウイルスをバクテリオファージといい、バクテリアの遺伝子に影響を与えます。例えば薬剤耐性遺伝子を得たある種のバクテリアが、そのファージを通じて、他のバクテリアにその耐性能力を広げるのです。

こうした現象は特別なことでなく、実はウイルスとバクテリアはいつも共生関係にあって情報のやり取りをしていたのです。

つまりウイルスやバクテリア、カビ類などの微生物は、いつも大型の生き物に入り込み、共生共存していたわけです。その中で、珍しい菌やカビが来ると、過剰反応を起こして発熱や痛みや下痢をしてしまう、それを感染症と呼んだだけのことです。

 

土いじりや野山の散歩

近頃ようやく腸内細菌の重要性が認識され始め、豊かな腸内細菌のフローラを保つためには十分な食物繊維が必要であることが常識になりました。

さらに大地や野山の環境が腸内の常在菌に好影響を与えていることもわかってきました。草むしりや耕作、さらに野山のハイキングなど、土と接することが、とてもお腹の調子を良くしてくれるのです。

 

バクテリアの菌体成分

バクテリアも新陳代謝しており、その菌体成分は壊れて腸で吸収しています。その成分の中に、リポポリサッカライド(LPS)という、糖脂質があります。

このLPSは、グラム陰性菌がもっている細胞壁成分で、これまで危険物質とされていました。病原菌が体内で増殖し、その菌が壊れた時そのLPSは大量に放出されて、高熱を出したり、血圧を下げたり、免疫を変化させたりしていたのです。そんなLPSですが、実は非常に役に立っていることがわかってきました。

 

マクロファージを活性化

マクロファージというのはとても原始的な白血球で、呼吸器や腸、皮下組織などでも活動しています。最初に異物や毒物をキャッチして、それを全身に教えるのです。そのためとても敏感なアンテナ、つまりレセプタが必要です。これをトール・ライク・レセプター(TLR)と呼び、数々発見されています。LPSはこのレセプターを刺激し、免疫活動を活発にするのです。

 

共存の中で疾病を減らしていくこと

生命体の世界は多種多様の共存で出来上がっています。

ちょうど森の中で、昆虫が花の蜜に引き寄せられ花粉を運ぶ、実った果実を小動物や小鳥が食し種を運ぶ、また小鳥たちはその昆虫も餌にします。こうした小動物を餌に鷹や鷲などの猛禽類や大型動物が生きています。そしてそれらの糞や食べ残しが昆虫や植物を育てているのです。生命の循環の中に、これまで認知できなかったウイルスや微生物を組み込まなければいけません。一緒に生活する仲間だったのです。

欧米で発明された菌の消毒、滅菌という概念は、排泄物や家畜の管理があまりに不潔だった環境から生まれました。ところが江戸期の日本では消毒や滅菌などしなくても、危険な感染症はそれほど問題になっていませんでした。排泄物は発酵させて大切な肥料にし、家畜の屠殺もめったにすることはなかったようです。さいわい清潔な真水が豊富という好条件もあり、手を洗い、体をあらう習慣もありました。

微生物と敵対するという考えをゆるめていき、上手に利用していく時代です。すでに豊かな発酵技術をもっている日本がその先端を行くべきでしょう。

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